BMCの顧客セグメントとは?「企業」「若者」では足りない顧客の具体化 ~ビジネスモデルキャンバスの教科書⑤~

BMCの顧客セグメントとは?「企業」「若者」では足りない顧客の具体化 ~ビジネスモデルキャンバスの教科書⑤~

メルセネール・大道寺です。

ビジネスモデルキャンバスの教科書の第5回目からは、いよいよ9つの各要素を解説していきます

第1回の全体像のお話はこちら。

ビジネスモデルキャンバスとは?9つの構成要素と使い方を初心者向けに解説 ~BMCの教科書①~

ビジネスモデルキャンバス(BMC)の顧客セグメント(Cusutomer Segment)とは、自社が価値を届けようとする顧客のまとまりです。

単に「法人」「若者」「宿泊施設」と書くのではなく、似たコンテキストで共通するJob・Pain/Gainを持ち、同じ価値提案や販売方法でアプローチできる単位まで具体化します。

顧客セグメントが曖昧だと、価値提案、チャネル、価格、必要な機能のすべてが曖昧になります。

この記事で分かること

  • BMCにおける顧客セグメント(CS)の意味
  • 市場と顧客セグメントの違い
  • BtoBで利用者・購入者・意思決定者を分ける方法
  • 顧客を具体化する5つの視点
  • 顧客セグメントの書き方と悪い例

先に結論をお伝えすると、

顧客セグメントは、「似た状況で共通するJob・Pain/Gainと購買条件を持ち、自社が同じ方法で価値を届けられる顧客の集まり」と考えると分かりやすくなります。

「顧客は宿泊施設です」では、まだ広すぎる

宿泊施設向け省人化サービスを検討していた際の話です。

私:
「このサービスの顧客は誰ですか?」

検討チーム:
「宿泊施設です。」

私:
「ホテル、旅館、民泊など、すべてでしょうか?」

検討チーム:
「人手不足は業界全体で言われているPainなので、すべて対象になると思います。」

私:
「大規模ホテルと小規模旅館では、同じ場面で同じJobを持ち、同じPain/Gainを重視するでしょうか?」

検討チーム:
「規模によって違いはあると思います。」

私:
「既に自動チェックイン機を導入している施設と、紙台帳で管理している施設へ、同じ提案をしますか?」

検討チーム:
「それも変える必要がありそうです。」

私:
「実際にサービスを使う人と、導入を決める人は誰でしょうか?」

検討チーム:
「使うのはフロント担当者で、決めるのは支配人や経営者だと思います。」

・・・「宿泊施設」は市場や業界を表す言葉としては問題ありません。

しかし、具体的な価値提案や販売方法を考えるには、まだ大きすぎます。

同じ宿泊施設でも、規模、業態、立地、人員体制、既存システム、意思決定方法によって、重要なJob・Pain/Gainも導入条件も変わります。

「宿泊施設」では顧客セグメントとして広すぎる

市場と顧客セグメントの違い

市場とは、特定の商品・サービスに関連する需要や取引の広がりを表す言葉です。

顧客セグメントは、その市場の中で、似た特徴を持つ顧客をまとめたものです。

例えば、

  • 市場:国内宿泊施設向けDX市場
  • 顧客セグメント:客室数10〜50室で、夜間スタッフの確保に困る地方の宿泊施設

という違いです。

市場は事業機会の大きさを見る際に使います。

顧客セグメントは、誰にどの価値を、どう届けるかを設計する際に使います。

市場規模が大きくても、顧客のJob・Pain/Gainや購買条件がバラバラであれば、1つの方法で攻略できません。

逆に、最初の顧客セグメントが小さくても、共通する重要なJob・Pain/Gainを持ち、同じ価値提案・販売方法でアプローチできれば、事業を立ち上げやすくなります。

顧客を具体化する5つの視点

顧客セグメントを考える際は、次の5つの視点が使いやすいです。

1. 属性

BtoCであれば、年齢、居住地域、職業、家族構成、所得などです。

BtoBであれば、

  • 業種
  • 従業員数
  • 売上規模
  • 拠点数
  • 地域
  • 部門
  • 保有設備

などがあります。

ただし、属性だけで分ければよいわけではありません。

同じ規模の宿泊施設でも、置かれている場面やJob、Pain/Gainが違えば、必要な価値も変わります。

2. 置かれている状況

顧客が、いつ、どこで、どのような状態に置かれているかです。

例えば、

  • 繁忙期にチェックインが集中する
  • 夜間スタッフを配置できない
  • 新しい施設を開業する
  • 既存システムの更新時期を迎えている
  • 多言語対応が必要になった

といった状況です。

商品を買うのは「特定の属性の人」ですが、買う必要性が生まれるのは「特定の状況」です。

状況まで書くと、顧客のJob・Pain/Gainを考えやすくなります。

3. Job・Pain/Gain

顧客を分けるうえで特に重要なのが、Customer JobとPain/Gainです。

Jobは、顧客が特定のコンテキスト・シーンで成し遂げたいこと、あるいは理想とする状態です。

PainはJobの実現を妨げる悩みや障害、GainはJobを実現する中で得たい結果・恩恵です。

同じ宿泊施設でも、

  • Job:夕方の混雑時にも、宿泊者を待たせず安全に入室案内を完了する
  • Pain:夜間スタッフを採用できず、鍵の受け渡しのためだけに担当者が残っている
  • Gain:少人数でも安定して運営し、スタッフを個別の接客へ振り向けたい

という顧客と、

  • Job:複数施設の入退室を、本部から一括して管理できている
  • Pain:施設ごとに異なる仕組みを使い、状況確認に時間がかかる
  • Gain:異常をすぐ把握し、少人数で複数拠点を管理したい

という顧客では、求めるサービスが変わります。

顧客セグメントは、「同じ場面で、同じJobを持ち、同じPain/Gainを重視するか」という視点で切ると、価値提案とつながりやすくなります。

4. 行動・現在の代替手段

現在どのような方法で問題へ対処しているかも重要です。

  • 人を追加配置している
  • 業務を外部委託している
  • 簡易的なキーボックスを使っている
  • 既存システムの機能で何とか対応している
  • 問題はあるが何もしていない

現在の行動が違えば、新しいサービスへの乗り換えやすさも違います。

既に高額なシステムを導入した顧客より、これから更新を迎える顧客の方が導入しやすいかもしれません。

5. 購買条件

特にBtoBでは、Job・Pain/Gainだけでなく、購入の仕方を確認します。

  • 誰が予算を持つか
  • 誰が導入を決めるか
  • どの程度の予算があるか
  • 稟議やセキュリティ審査が必要か
  • 導入まで何か月かかるか
  • 既存取引先からしか購入できないか

Painが深刻でも、意思決定に1年以上かかる顧客ばかりでは、立ち上げ初期の事業には向かない可能性があります。

顧客を具体化する5つの視点

BtoBでは「企業」ではなく、人と役割を見る

BtoBの顧客セグメントを考えるとき、「〇〇業界の企業」と書いて終わるケースが多いです。

しかし、企業そのものが話したり、サービスを操作したり、稟議書を書いたりするわけではありません。

企業の中には、複数の役割があります。

利用者

実際に商品・サービスを使う人です。

宿泊施設なら、フロント担当者、夜間担当者、施設管理担当者などです。

意思決定者

導入を最終的に決める人です。

支配人、経営者、本部のIT責任者などが考えられます。

購入・契約担当者

見積もり、契約、支払いなどの手続きを行う人です。

総務、経理、購買部門が関わる場合があります。

影響者

決裁権はないものの、導入判断へ大きな影響を与える人です。

現場責任者、情報システム部門、既存の設備会社などです。

受益者

導入によって利益を得る人です。

宿泊施設の省人化サービスでは、施設だけでなく、待ち時間が減る宿泊者も受益者です。

利用者は「間違えずに短時間で業務を終えたい」、意思決定者は「投資に見合う運営成果を出したい」、情報システム部門は「安全かつ安定して運用したい」など、役割によってJob・Pain/Gainが変わります。

「顧客企業に価値を提供する」だけではなく、「企業内の誰に、何を説明するか」まで考えると、チャネルや顧客との関係が具体化します。

BtoBにおける企業内の役割の違い

顧客セグメントのよい書き方

「宿泊施設」よりも、

客室数10〜50室で、夜間スタッフの確保が難しく、既存の予約管理システムを利用している地方の独立系宿泊施設

と書く方が、具体的です。

この文章には、

  • 規模
  • Jobを行う場面と主要なPain
  • 既存環境
  • 地域
  • 経営形態

が含まれています。

ただし、細かく書けばよいわけではありません。

「支配人が50代で、旅行好きで、SNSを週3回利用する」と書いても、購買やJob・Pain/Gainに影響しないなら不要です。

事業設計に影響する違いへ絞ります。

顧客セグメントのよい基準は、

この違いによって、提供価値、商品、チャネル、価格、顧客との関係のいずれかを変える必要があるか?

です。

変える必要が無ければ、同じセグメントとして扱える可能性があります。

顧客を狭めると、市場が小さくならないか?

顧客セグメントを具体化すると、「対象を狭めすぎでは?」という不安が出ます。

しかし、最初に狙う顧客を絞ることと、将来の市場を狭く定義することは別です。

立ち上げ時は、Jobが重要でPainが深刻、Gainが必要不可欠で、価値を理解してくれ、アクセスしやすい顧客へ集中します。

そこで実績やノウハウを作り、隣接する顧客へ広げます。

「すべての宿泊施設が対象です」と言うより、

まずは、夜間の鍵受け渡しを少人数で安全に完了するというJobに強いPainを持つ、地方の小規模宿泊施設。その後、複数施設の一括管理というJobを持つ都市部の運営会社へ展開する

と説明した方が、事業の進め方が見えます。

最初の顧客選定については、次回のビーチヘッド市場で詳しく扱います。

顧客セグメントでよくある間違い

Job・Pain/Gainを確認せず、属性だけで分ける

「20代女性」「製造業」「従業員300名以上」だけでは、なぜその顧客が買うか分かりません。

属性とコンテキスト、Job・Pain/Gainを組み合わせます。

利用者と購入者を混ぜる

使う人が高く評価しても、予算を持つ人が価値を感じなければ導入されません。

役割ごとの価値を整理します。

理想的な顧客像を作りすぎる

自社の商品を買ってくれそうな特徴を後付けすると、現実には存在しない顧客像になります。

インタビュー、顧客データ、営業情報などから根拠を確認します。

顧客とパートナーを混ぜる

販売代理店や設置会社は、収益をもたらす顧客の場合もあれば、価値提供を助けるパートナーの場合もあります。

誰が何の価値に対して支払うかで整理します。

顧客セグメントでよくある間違い

ミニワーク:顧客セグメントを1文で書く

次の空欄を埋めてください。

【属性・規模】の【顧客・役割】で、【コンテキスト・シーン】において【Job】を成し遂げたいが、【重要なPain】があり、現在は【代替手段】で対応している。

次に、次の3問を確認します。

  1. この顧客と場面を、別の人も同じように想像できるか
  2. 同じJob・Pain/Gainを持つ顧客が、実際に複数存在するか
  3. この顧客へ、現実的に接触できるか
  4. 利用者・意思決定者・支払者は誰で、それぞれのJob・Pain/Gainは何か

最後に、「この顧客が変わると、価値・チャネル・価格のどれが変わるか」を考えます。

何も変わらないなら、細かく分けすぎている可能性があります。

顧客セグメントについてよくある質問

Q1. ペルソナと顧客セグメントは同じですか?

顧客セグメントは共通特徴を持つ顧客の集まり、ペルソナはそのセグメントを代表する具体的な人物像です。まずセグメントを定め、必要に応じてペルソナを作ります。

Q2. 顧客セグメントはいくつ作ればよいですか?

数に正解はありません。ただし初期事業では、最優先のセグメントを1つ決めることが重要です。

Q3. 支払者と利用者が違う場合、どちらを顧客にしますか?

両方をBMCへ記載し、価値提案とチャネルを対応させます。特に、支払者が導入を決める理由を明確にする必要があります。

Q4. 顧客を細かく分けすぎたか、どう判断しますか?

顧客の違いによって、価値提案、商品、チャネル、価格、関係性を変える必要があるかで判断します。変わらないなら統合できます。

今回のまとめ

  • 顧客セグメントは、似た状況で共通するJob・Pain/Gain、行動、購買条件を持つ顧客のまとまり
  • 市場と顧客セグメントは異なる
  • 属性だけでなく、コンテキスト、Job・Pain/Gain、代替手段、購買条件で具体化する
  • BtoBでは利用者、意思決定者、支払者、影響者を分ける
  • 事業設計に影響しない細かな特徴は不要
  • 最初の顧客を絞ることと、将来市場を狭くすることは別

「誰にでも使えます」という商品は、誰にも強く必要とされないことがあります。

まずは、同じ場面で同じJobを持ち、重要なPain/Gainを共有する顧客を具体的に理解するところから始めましょう。

次回は、「ビーチヘッド市場とは何か?」です。

複数の顧客候補から、最初に狙う顧客セグメントをどのように選ぶかを、定性的・定量的な評価方法とともに整理します。

※Customer Jobの考え方はこちらの記事も参照してください。

※Pain/Gainの考え方はこちらの記事も参照してください。


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※本記事はメルセネール代表 大道寺のnote記事 の転載です。

             

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