BMCを書く前に決めること|対象事業・時間軸・事実と仮説の整理 ~ビジネスモデルキャンバスの教科書④~

BMCを書く前に決めること|対象事業・時間軸・事実と仮説の整理 ~ビジネスモデルキャンバスの教科書④~

メルセネール・大道寺です。

ビジネスモデルキャンバスの教科書も今回で第4回目です。
今回はビジネスモデルキャンバスに入る前に、やっておくとよい視点からお話をします。

第1回の全体像のお話はこちら。

ビジネスモデルキャンバスとは?9つの構成要素と使い方を初心者向けに解説 ~BMCの教科書①~

ビジネスモデルキャンバス(BMC)を書く前には、「何のために、どの事業を、どの顧客と時間軸で整理するのか」を決める必要があります。

ここが曖昧なまま9つのマスを埋め始めると、会社全体と個別サービス、現在と将来、事実と願望が1枚の中に混ざってしまいます。

結果として、内容は豊富なのに誰も説明できないBMCになります。

この記事で分かること

  • BMCを書く前に決める5つの項目
  • BMCの対象範囲を切り出す方法
  • 現在と将来のモデルを分ける理由
  • 事実・仮説・不明を区別する方法
  • BMCに目的とバージョンを付ける方法

先に結論をお伝えすると、

BMCを書き始める前に、「目的・対象事業・顧客・時間軸・仮説の状態」を1行ずつ決めておくと、議論のブレが大きく減ります。

1枚の中に、3つの事業が入っていた

あるメーカーで、新しいサービス事業のBMCを確認した際の話です。

1枚の中に3つの事業が混ざっているBMCの例

顧客セグメントには、

  • 自社製品を購入する法人
  • 製品を実際に使う現場担当者
  • 将来展開したい海外企業

が並んでいました。

チャネルには、既存営業、Web販売、代理店、海外現地法人。

収益の流れには、製品販売、保守契約、月額サービス、将来的なデータ販売。

主要活動には、現在行っている製造・営業と、今後行いたいAI分析・コンサルティングが一緒に書かれています。

検討チーム:
「関係することは、かなり網羅できたと思います。」

私:
「これは、現在の製品事業を整理したBMCでしょうか。それとも、新しい月額サービスの立ち上げモデルでしょうか?」

検討チーム:
「どちらも含んでいます。」

私:
「海外企業やデータ販売は、立ち上げ時から対象ですか?」

検討チーム:
「そこは将来的な話です。」

私:
「では、このBMCを使って、今回どのような判断をしたいのでしょうか?」

検討チーム:
「……確かに、何を判断するための1枚か分からなくなっています。」

情報量が多いことと、事業が具体的であることは違います。

このBMCには、既存の製品販売、立ち上げたい国内サービス、将来の海外・データ事業という、少なくとも3つのモデルが混ざっていました。

BMCを書く前に決める5つのこと

BMCを作成する前に、次の5つを確認します。

  1. 何のために作るのか
  2. どの事業を対象にするのか
  3. どの顧客を中心にするのか
  4. いつのモデルを描くのか
  5. 何が事実で、何が仮説か

順番に見ていきます。

BMCを書く前に決める5つのこと

1. 何のためにBMCを作るのか

BMCは作成すること自体が目的ではありません。

例えば、目的には次のようなものがあります。

  • 新規事業アイデアの全体像を整理する
  • 複数の事業案を比較する
  • チーム内の認識を合わせる
  • 幹部へ事業構造を説明する
  • 既存事業の弱点を発見する
  • サービス化・サブスクリプション化の影響を確認する
  • 検証すべき仮説を洗い出す
  • パートナー候補と役割を議論する

目的によって、必要な粒度が変わります。

初期アイデアの全体像を整理するなら、大まかな仮説で構いません。

投資判断に使うなら、顧客の支払意思、売上・コスト、技術や運用の実現性など、根拠が求められます。

まずBMCの上部に、

このBMCは、〇〇を判断・議論するために作成する

と書いてみてください。

この1行に合わない情報は、別資料か別のBMCへ分けます。

2. どの事業を対象にするのか

会社全体のBMCなのか、特定の事業・商品・サービスのBMCなのかを決めます。

大企業や複数事業を持つ企業で「自社のBMC」を作ろうとすると、かなり抽象的になります。

顧客も価値もチャネルも違う事業を1枚にまとめるため、

  • 顧客:法人・個人
  • 価値:高品質・安心・利便性
  • チャネル:営業・代理店・Web

といった、大きな言葉しか書けなくなります。

これでは、具体的な事業の検討に使えません。

BMCの対象は、

〇〇という顧客に対する、△△事業

と表現できる程度まで切り出すことをおススメします。

例えば、

  • 中小宿泊施設向けスマートロック・遠隔管理サービス
  • 大企業の経理部門向け請求書処理SaaS
  • 既存顧客向け製造設備の予防保全サービス

という単位です。

3. どの顧客を中心にするのか

BtoBtoC、プラットフォーム、代理店モデルなどでは、複数の顧客・関係者が登場します。

宿泊施設向けサービスであれば、

  • サービスを導入し、料金を支払う宿泊施設
  • 実際に鍵を利用する宿泊者
  • 販売や設置を担う設備会社
  • 予約情報を連携するシステム会社

が関わります。

全員を「顧客」と呼ぶと、価値提案や収益の対応が分からなくなります。

まず、

  • 料金を支払う顧客
  • 実際に利用するユーザー
  • 導入を決める意思決定者
  • 価値提供を助けるパートナー

を区別します。

複数の顧客セグメントがある場合は、色分けして対応関係を示します。

それでも複雑なら、顧客ごとにBMCを分けます。

4. いつのビジネスモデルを描くのか

新規事業の立ち上げ時と、成長後ではビジネスモデルが異なります。

立ち上げ時は、顧客を理解するために創業メンバーが個別営業・個別支援を行うかもしれません。

成長後は、パートナー販売、オンライン導入、自動サポートなどへ変わる可能性があります。

収益モデルも、

  • 最初は実証実験費用を受け取る
  • 次に初期費用と月額利用料へ移行する
  • 将来はデータや追加機能でも収益を得る

と変わるかもしれません。

これらを1枚に書くと、「現在できること」と「将来やりたいこと」が混ざります。

最低でも、

  1. 立ち上げモデル
  2. 軌道化モデル
  3. 拡大モデル

を分けて考えます。

遠い将来ほど仮説が多いため、詳細に書きすぎる必要はありません。

重要なのは、今回検討する時間軸を明記することです。

立ち上げモデル・軌道化モデル・拡大モデルの時間軸

5. 何が事実で、何が仮説か

BMCに書かれている内容は、同じ確からしさではありません。

例えば、

  • 顧客が人手不足に困っている:インタビューで確認済み
  • 鍵の受け渡しに最も困っている:一部顧客の声からの仮説
  • 月額3万円なら支払う:未確認
  • 設備会社が販売してくれる:未確認
  • 既存システムと接続できる:技術部門で確認済み

というように状態が異なります。

すべてを同じ色の付箋で書くと、会議参加者は「書いてあることは確認済み」と誤解します。

そこで、次の3つに分けます。

  • 事実:根拠やデータを確認できている
  • 仮説:現時点でこう考えている
  • 不明:まだ考えられていない、確認が必要

色を分けてもよいですし、付箋の端に「F=Fact」「H=Hypothesis」「U=Unknown」と書いても構いません。

仮説には、根拠と確信度を付けるとさらに分かりやすくなります。

月額3万円なら支払う
根拠:類似サービスの価格、顧客2社の反応
確信度:低

このように書けば、次に何を確認すべきかが見えます。

事実・仮説・不明の区別と根拠・確信度の記載

BMCの上部に「5行の前提」を書く

実務では、BMCの上部や別紙に、次の5行を記載しておくと便利です。

  1. 作成目的
    国内での初期事業化に向け、成立条件と検証項目を確認する
  2. 対象事業
    中小宿泊施設向けスマートロック・遠隔管理サービス
  3. 中心顧客
    客室数10〜50室、夜間人員の確保が難しい宿泊施設
  4. 時間軸
    サービス提供開始から1年目
  5. 作成日・版
    20XX年X月X日/Version 0.3

BMCは更新するものです。

作成日とバージョンが無いと、どのBMCが最新か分からなくなります。

また、更新した際は、

  • 顧客インタビューを踏まえて価値提案を変更
  • 技術検証の結果、主要パートナーを追加
  • 価格調査を踏まえて収益の流れを変更

のように変更理由を残します。

これによって、単に内容が変わったのではなく、どのような学習があったかをチームで共有できます。

BMCを書く前によく起きる3つの間違い

いきなり付箋を書き始める

ワークショップでテンプレートを配ると、すぐに付箋を書き始める方がいます。

先に目的と範囲を確認しないと、メンバーごとに違う事業・時間軸を想像します。

最初の10分を前提の確認に使った方が、その後の議論が速くなります。

分からないところを、もっともらしい言葉で埋める

「顧客との関係が分からないので、長期的な信頼関係と書こう」

「主要リソースは、人材・技術・ブランドとしておこう」

という埋め方では、検討は進みません。

分からないことは「不明」と書き、確認方法を考えます。

1枚をきれいに仕上げようとする

BMCはプレゼンテーション資料ではなく、検討の作業台です。

途中版は汚くても、書き換えが多くても問題ありません。

重要なのは、学習した内容が反映されていることです。

ミニワーク:BMCの「表紙」を作る

まだBMC本体は書かず、次の5問に答えてみてください。

  1. このBMCで何を判断・議論したいか
  2. どの商品・サービス・事業を対象にするか
  3. 最も重要な顧客は誰か
  4. いつのビジネスモデルを描くか
  5. 現時点で最も確信度が低い仮説は何か

5問へ答えられない場合、BMCを書き始める前に、チームで認識を合わせる必要があります。

逆に、ここが揃っていれば、各ブロックの議論はかなり進めやすくなります。

BMCを書く前の準備についてよくある質問

Q1. 会社全体のBMCを作ってはいけませんか?

目的が会社全体の事業構造を概観することであれば可能です。ただし、具体的な施策や新規事業を検討する場合は、事業単位に分けた方が有効です。

Q2. 将来構想を現在のBMCへ書いてはいけませんか?

現在と将来を区別できるなら記載できますが、基本は別のBMCに分けるのがおススメです。実現に必要な活動・リソース・コストが異なるためです。

Q3. 事実と仮説の境界はどう決めますか?

第三者へ「何を根拠にそう言えるか」を説明できるかで考えます。インタビュー1件だけで市場全体の事実とするなど、根拠の範囲を広げすぎないよう注意します。

Q4. BMCは何回更新すればよいですか?

回数に正解はありません。重要な顧客情報、技術検証、価格検証、パートナー協議などで前提が変わるたびに更新します。

今回のまとめ

  • BMCを書く前に、目的、対象事業、顧客、時間軸、仮説の状態を決める
  • 会社全体と個別事業を混ぜない
  • 立ち上げ時と成長後のモデルを分ける
  • 複数の顧客・関係者は、役割を区別する
  • BMCの内容を、事実・仮説・不明に分類する
  • 作成日、バージョン、変更理由を残す

BMCの品質は、付箋を書く前の前提設定でかなり決まります。

最初から正解を出す必要はありません。

ただし、「何について考えているのか」だけは明確にしてから始めましょう。

次回から、9つのブロックを具体的に見ていきます。

第5回は、「顧客セグメントとは何か?」です。

「企業」「若者」「高齢者」のような大きな分類から、実際に事業を設計できる顧客像へ具体化する方法を整理します。


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※本記事はメルセネール代表 大道寺のnote記事 の転載です。

             

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