バリュープロポジションキャンバス(VPC)とは? -顧客の悩みに応える提供価値をデザインする方法- (テンプレート付)
メルセネール・大道寺です。
ビジネスモデルキャンバスの教科書、今回で第3回目です。
第1回の投稿はこちら。
ビジネスモデルキャンバスとは?9つの構成要素と使い方を初心者向けに解説 ~BMCの教科書①~
今回のテーマは”BMCの繋がり”です。
ビジネスモデルキャンバス(BMC)の9つの要素は、独立したチェック項目ではありません。
「誰に価値を届けるか」から始まり、「どのように届けるか」「何を準備・実行するか」「どう収益とコストが発生するか」へつながる、一つの事業の物語です。
9つのマスがすべて埋まっていても、要素同士がつながっていなければ、ビジネスモデルとしては不十分です。
先に結論をお伝えすると、
よいBMCは、9つのマスを順番に読み上げなくても、「誰に、何を、どう届け、どう実現し、どう利益を得る事業か」を一つの文章で説明できます。
ある新規サービスのBMCを確認した際の話です。
顧客セグメントには「中小宿泊施設」、価値提案には「フロント業務の省人化」、収益の流れには「月額課金」と書かれていました。
主要リソースには「AI」「顧客データ」「ブランド」、主要パートナーには「システム開発会社」「設備会社」「自治体」と書かれています。
一見すると、かなり埋まっています。
私:
「このAIは、具体的にどの価値を実現するために必要でしょうか?」
検討チーム:
「今後、需要予測や問い合わせ対応などに活用できればと思っています。」
私:
「現在の価値提案は、フロント業務の省人化でした。AIが無いと、この価値は実現できないのでしょうか?」
検討チーム:
「現段階では、必須ではないかもしれません。」
私:
「自治体は、どの活動やリソースを担うパートナーでしょうか?」
検討チーム:
「地域観光との連携ができそうなので入れました。」
私:
「それは中小宿泊施設へ販売するモデルに、どのようにつながりますか?」
検討チーム:
「……まだ明確にはつながっていません。」
これはBMCでよく起きる、「関連しそうな言葉を各マスに置いている」状態です。
AIも、データも、自治体連携も、それ自体が悪いわけではありません。
ただし、現在考えている顧客価値や収益につながらないのであれば、少なくとも今のモデルの主要要素とは言えません。

9つを一度に覚えようとすると大変です。
まずは次の4つのまとまりで捉えると分かりやすくなります。
最初の問いは、
誰の、どのような課題に対して、どんな価値を届けるのか?
です。
BMCの中心に価値提案が置かれ、その隣に顧客セグメントが置かれています。
価値は単独では存在しません。特定の顧客が、特定の状況で意味を感じて初めて価値になります。
例えば「チェックインを無人化できる」という機能も、都市部の大規模ホテルと、夜間スタッフを確保できない地方の小規模旅館では意味が違います。
誰にとっての価値かをセットで考えることが最初の一歩です。
次の問いは、
顧客にどう知ってもらい、購入・導入してもらい、継続利用してもらうのか?
です。
チャネルは、広告や営業だけではありません。
認知、比較、購入、導入、利用、アフターサポートまで含めて、顧客と接触し、価値を届ける経路を考えます。
顧客との関係では、個別に人が支援するのか、オンラインで自己解決してもらうのか、利用状況を見て自動的にフォローするのかなどを設計します。
低価格のサービスなのに、営業も導入もサポートもすべて個別対応では、採算が合わない可能性があります。
届け方と関係の持ち方は、価値だけではなく収益性にもつながります。
ここでは、
約束した価値及びモデルを実現するために、何を行い、何を持ち、誰と組むのか?
を考えます。
宿泊施設向け省人化サービスなら、システム開発だけでなく、機器の調達、現地設置、予約システムとの接続、運用監視、問い合わせ対応などが必要です。
その活動に必要な技術、人材、データ、設備、資金などが主要リソースです。
すべてを自社で行わない場合は、設備会社、機器メーカー、システム会社などが主要パートナーになります。
活動、リソース、パートナーは、価値提案と直接つながっている必要があります。
最後は、
誰から、何の対価としてお金を頂き、何にコストが発生するのか?
です。
収益の流れには、顧客セグメントと価値提案がつながります。
誰が、どの価値に対して支払うのかが不明なまま、月額課金やサブスクリプションとだけ書いても、収益モデルにはなりません。
コスト構造は、主要活動、主要リソース、主要パートナーから発生します。
人が行う活動が多ければ人件費が増えます。高性能な機器が必要なら調達費が増えます。外部パートナーを活用すれば委託費や手数料が発生します。
収益とコストは、他の7つのブロックの結果として現れます。
BMCを読むときは、次の順番で問いかけてみてください。

厳密にこの順番で書かなければならないわけではありません。
しかし、新規事業の場合は、顧客と価値から始めると考えやすくなります。
作りたい商品や保有技術から始める場合でも、途中で必ず顧客と価値へ戻り、「誰にとって必要か?」を確認します。
これまで扱っているケースを、BMCの物語として説明してみます。
夜間スタッフの確保が難しい中小宿泊施設に対して、スマートロックと遠隔管理サービスを提供し、鍵の受け渡しと入退室管理の負担を減らす。設備会社や宿泊施設向けシステム会社を通じて顧客へ接点を持ち、初期設置時は個別支援、導入後はオンラインサポートを行う。自社はサービス設計、管理システムの運用、顧客サポートを担い、機器製造と現地設置はパートナーを活用する。初期設置費用と月額利用料を受け取り、システム運用費、機器調達費、設置委託費、サポート人件費を負担する。
まだ仮説は多いですが、事業の全体像は説明できます。
この文章を分解すると、9つのブロックへ対応します。
BMCを見せずにこの物語を説明し、その後で1枚を見せると、相手も理解しやすくなります。
よいBMCにはストーリーと流れがあり、他の要素とつながらない孤立したブロックを置かないことが重要とされています。
確認方法はシンプルです。
BMCに書いた言葉から、関係するブロックへ矢印を引いてみます。
例えば、
とつなぎます。
矢印を引けない言葉があれば、次のどれかです。
将来のモデルに必要な要素であれば、現在のBMCへ無理に入れず、将来版のBMCを別に作る方法があります。
現在と将来の要素を1枚に混ぜると、モデルが分かりにくくなります。
「技術力」「ブランド」「データ活用」など、大きな言葉だけでは関係を説明できません。
どの技術が、どの活動を可能にし、どの価値を生むのかまで具体化します。
宿泊施設、宿泊者、旅行会社、自治体などを1つの顧客セグメントへまとめると、価値や収益との対応が分からなくなります。
顧客ごとに色を変えるか、BMC自体を分けて考えます。
立ち上げ時には人が個別対応し、将来はAIで自動化する場合、主要活動・リソース・コストは異なります。
時間軸が違うモデルは、別のBMCとして書き分けます。
BMCは業務一覧や会社案内ではありません。
価値を生み、届け、収益を得るうえで主要なものに絞ります。

作成中のBMCがある方は、次の文章を埋めてみてください。
私たちは、【顧客】に対して、【価値】を提供します。【チャネル】を通じて届け、【関係】によって利用を支えます。顧客からは【収益】を得ます。ビジネスモデルと提供価値の実現に向けて、【主要リソース】を使い、【主要パートナー】と組み、注力すべきことは【主要活動】です。主なコストは【コスト】です。
60秒程度で説明できなければ、情報が多すぎるか、要素のつながりが弱い可能性があります。
次に、説明の中に登場しなかった言葉をBMC上で探してください。
その言葉が本当に主要要素かを見直します。
新規事業では、顧客セグメントと価値提案から始めるのが基本です。既存事業の分析では、分かっているところから仮置きしても問題ありません。
数に正解はありませんが、主要なものへ絞ります。説明に使わない項目が増えたら、書きすぎを疑ってください。
顧客ごとに色分けし、価値・チャネル・収益との対応を示します。関係が複雑なら、顧客ごとにBMCを分けます。
必須ではありません。ただし、初心者が要素間の因果関係を確認する方法として非常に有効です。
BMCを作ったら、各マスの文章を読むのではなく、全体を一つの事業として話してみてください。
話が途切れるところに、まだ検討できていない論点があります。
次回は、「BMCを書く前に決めること」を扱います。
対象とする事業の範囲、顧客、時間軸、事実と仮説を整理しないまま書き始めると、BMCは簡単にブレてしまいます。
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※本記事はメルセネール代表 大道寺のnote記事 の転載です。