バリュープロポジションキャンバス(VPC)とは? -顧客の悩みに応える提供価値をデザインする方法- (テンプレート付)
メルセネール・大道寺です。
今回から、ビジネスモデルキャンバスの書き方をテーマに、全20回程度に分けて整理していきたいと思います。
最近、ビジネスモデル設計・実証のコンサルティングや研修に関するご相談が非常に多く、改めて初心者の方向けに、丁寧かつ体系的にお伝えしてみようと思った次第です。
ビジネスモデルキャンバス(Business Model Canvas、以下BMC)とは、事業の仕組みを「顧客」「提供価値」「届け方」「収益・コスト」「実現体制」など、9つの構成要素で1枚に可視化するフレームワークです。
新規事業のアイデア整理、既存事業の分析、チーム内の認識合わせなど、様々な場面で活用できます。
ただし、BMCは9つのマスを埋めれば完成するものではありません。各要素のつながりを確認し、どこが事実で、どこが未検証の仮説なのかを明らかにすることが本当の目的です。
この記事では、初めてBMCを使う方に向けて、次の内容を解説します。
先に結論をお伝えすると、
BMCは、事業の正解を書くシートではなく、事業の全体像と未検証の仮説を可視化し、対話と検証を前に進めるための道具です。
初めてBMCを使う方、新規事業や商品・サービス企画に初めて関わる方を主な対象としています。一方で、既にBMCを使ったことがある方にも、「なんとなく9つのマスを埋めて終わっていたかもしれない」と振り返る機会になるよう、実務でよく起きるケースも交えていきます。
第1回は、「ビジネスモデルキャンバスとは何か?」から始めます。
新規事業のメンタリングをしていると、次のような場面があります。
検討チーム:
「ビジネスモデルキャンバスを完成させました!9つの項目もすべて埋まっています。」
私:
「ありがとうございます。では、この事業が顧客から選ばれ、継続的に利益を生み出せる一番のポイントはどこですか?」
検討チーム:
「ええと……価値提案のところに書いてある内容です。」
私:
「その価値を、競合よりもよい形で届けられる根拠はありますか?」
検討チーム:
「主要リソースのところに、自社の技術力と書いてあります。」
私:
「その技術力は、具体的にどの活動や顧客価値につながるのでしょうか?また、それを維持するコストを踏まえても利益は残りますか?」
検討チーム:
「……そこまでは、まだつながっていないです。」
極端な例に見えるかもしれませんが、実はけっこう多いケースです。
BMCの枠に付箋を貼っていき、空欄が無くなると「ビジネスモデルが完成した」という感覚になります。見た目としても1枚のシートが埋まるため、何となく達成感があります。
しかし、
「BMCの9つのマスを埋めること」と、「ビジネスモデルを考えること」は同じではありません。
むしろ大事なのは、埋めた後です。
各ブロックがどのようにつながっているのか。どこが事実で、どこが未検証の仮説なのか。何が事業の成立を左右するのか。ここまで考えて、ようやくBMCが事業検討の道具として機能し始めます。

以前、こちらのnoteでも『ビジネスモデル』の認識ズレ問題を取り上げました。
「ビジネスモデル」というワードは便利なのですが、人によって指しているものが異なります。
これらのどれか1つを「ビジネスモデル」と呼んでいるケースもあります。
絶対的な定義が1つに決まっているわけではありませんが、私は実務上、
ビジネスモデルとは、「顧客に価値を届け、その対価を得ながら、継続的に成長する仕組み」である
と捉えるのが分かりやすいと思っています。
もう少しかみ砕くと、次の4つの問いに答えるものです。
この4つは、どれか1つだけでは成立しません。
顧客に喜ばれる価値があっても、届ける手段が無ければ事業にはなりません。届けられたとしても、提供するたびに赤字になるのであれば継続できません。利益が出そうでも、必要な技術や人材を確保できなければ実現できません。
このつながり全体がビジネスモデルです。
初心者の方が最初につまずきやすいのが、「商品・サービス」と「ビジネスモデル」の混同です。
例えば、宿泊施設向けに、スマートロックと管理システムを組み合わせた省人化サービスを提供するとします。宿泊者がスマートフォンなどで解錠でき、施設側は鍵の受け渡しや入退室管理を遠隔化できるサービスです。
商品・サービスとして説明すると、
スマートロックと管理ソフトウェアによって、宿泊施設の鍵の受け渡し業務を省人化する
ということになります。
しかし、これだけではビジネスモデルは分かりません。
同じ機能を持ったサービスでも、
など、複数のモデルが考えられます。

誰を顧客とするか、誰が料金を支払うか、どのような経路で届けるか、設置や保守を誰が担うか。これらが変われば、必要な人材、パートナー、コスト、収益性も変わります。
つまり、
「何を売るか」はビジネスモデルの一部であって、全部ではない
ということです。
新しい技術や商品を持っている企業ほど、「この商品をどう売ろうか?」から検討を始めがちです。それは全然おかしいことではありません。ただ、その商品の説明だけで事業全体を語った気にならないよう注意が必要です。
BMCは、アレックス・オスターワルダー氏らによって体系化された、ビジネスモデルを1枚で可視化するフレームワークです。
既存・新規のビジネスモデルを記述、設計、検討、発明、転換するための戦略・事業開発ツールとして位置づけられています。
企業や事業が、
誰に、どのような価値を、どのような仕組みで届け、どう収益を得るのか
を一貫して説明できるようにするのがBMCです。
BMCは、ビジネスモデルを次の9つの構成要素に分けて考えます。
9つ並ぶと少し多く感じますが、大きく捉えると、
を確認しているだけです。
各ブロックの詳しい考え方は、次回以降で1つずつ扱います。今の段階で名称をすべて覚える必要はありません。
BMCの特徴は、ビジネスモデルを1枚で表現することです。
事業計画書であれば、市場環境、競合、商品内容、販売計画、収支計画、実行体制などを何十ページにもわたって整理します。それ自体は必要なことですが、検討の序盤から詳細な資料を作ると、全体のつながりが見えにくくなることがあります。
BMCを1枚にすることには、主に3つの意味があります。
顧客だけ、商品だけ、収益だけを個別に考えるのではなく、それらのつながりを同時に確認できます。
例えば、顧客を中小企業に設定しているのに、対面営業と手厚い個別サポートを前提にし、料金は月額数千円というモデルを考えていたとします。
売上に対して営業・サポートコストが大きくなりそうです。顧客、チャネル、顧客との関係、収益、コストを同時に見ることで、この矛盾に気づきやすくなります。
新規事業では、営業、企画、開発、製造、管理部門など、異なる専門性を持った人が関わります。
営業担当者は顧客への売り方を考え、開発担当者は技術的な実現性を考え、管理部門は収支やリスクを考えます。それぞれの視点は重要ですが、個別に話していると議論がかみ合わないことがあります。
BMCが1枚あると、
「顧客セグメントを変えるのであれば、チャネルも変わりますよね」
「この価値提案を実現するには、主要活動としてデータ分析が必要では?」
「その活動を追加すると、コスト構造はどう変わるのか?」
というように、同じ地図を見ながら議論できます。
BMCを作る目的は、きれいに埋めることではありません。
「顧客との関係が具体化できない」
「誰がお金を払うのか曖昧」
「必要なパートナーが思いつかない」
という空欄や違和感が見つかることにも価値があります。
空欄を無理に想像で埋めるよりも、「ここは分からない」「顧客への確認が必要」「技術部門と議論する」と明示した方が、次の行動につながります。

ここは非常に重要です。
BMCを書いたからといって、その事業が正しいと証明されたわけではありません。
顧客セグメントに「中小宿泊施設」と書いても、その顧客が本当に強い課題を抱えているかは分かりません。価値提案に「業務負担を50%削減」と書いても、実際にその効果が出るとは限りません。収益の流れに「月額3万円」と書いても、顧客が払ってくれるとは限りません。
最初に書くBMCの多くは、事実ではなく仮説です。
だからこそ、
という使い方をします。
一度作ったBMCを長期間そのまま使い続けるのではなく、顧客や競合、自社の状況が変わればモデルも見直します。
BMCは完成品ではなく、事業の仮説を更新していくための作業台のようなものです。
今回の段階では、いきなり自分の新規事業アイデアについて9つのブロックを完璧に埋める必要はありません。
まずは、自分が日常的に利用している商品やサービスを1つ選び、次の4点を考えてみてください。
例えば、動画配信サービス、コンビニ、スポーツジム、業務で使っているクラウドサービスなど、仕組みをある程度想像できるものがおススメです。
調べないと分からないところは「分からない」で問題ありません。
むしろ、
自分はこのサービスを使っているのに、意外とビジネスの仕組みは知らない
と気づくことが、ビジネスモデルを考える最初の一歩です。
今回のポイントは以下です。
BMCはシンプルな見た目ですが、かなり奥が深いフレームワークです。
便利な一方で、使い方を間違えると「それらしい言葉を9つの枠に並べただけ」になってしまいます。このシリーズでは、各ブロックの意味だけでなく、ブロック同士のつながりや、実務上どこでつまずくのかまで整理していきます。
BMCは、事業の全体像を9つの構成要素で可視化し、要素同士のつながりや不足している仮説を確認するために使います。
きれいな1枚を作ることよりも、チームで共通認識を持ち、次に調査・検証すべきことを明らかにすることが重要です。
BMCは、ビジネスモデルの骨格を1枚で捉えるためのものです。一方、事業計画書では、市場分析、競合分析、販売計画、収支計画、実行スケジュールなどを、より詳細かつ定量的に整理します。
BMCは事業計画書の代わりではありません。最初にBMCで事業のつながりを確認し、その後に必要な項目を詳しく分析していくと考えると分かりやすいです。
新規事業の場合は、まず「顧客セグメント」と「価値提案」から考えるのがおススメです。
誰のどのような課題を解決するのかが決まらなければ、適切なチャネル、顧客との関係、収益モデル、必要な活動やリソースも決められないためです。
ただし、厳密に決められた順番があるわけではありません。書きやすいところから仮置きし、最後に9つの要素のつながりを確認する方法でも問題ありません。
完成ではありません。
最初のBMCには、顧客の課題、支払意欲、販売方法、必要なコストなど、多くの未検証の仮説が含まれています。顧客インタビュー、試作品、販売テスト、収支試算などから得た情報を踏まえ、何度も更新していきます。
新規事業だけではありません。
既存事業の構造整理、競合との比較、収益モデルの見直し、DXやサービス化の検討、複数部門間の認識合わせなどにも活用できます。
重要なのは、何のために、どの範囲の事業をBMCで整理するのかを最初に決めておくことです。
次回は、「なぜ良いアイデアだけでは事業にならないのか?」を扱います。
顧客から評価されるアイデアであっても、なぜ事業として成立しないことがあるのか。BMCを使う前提として、アイデアと事業の違いを考えていきます。
※次回の投稿しました
https://note.com/merce_n/n/n57ec1ff590cb
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※本記事はメルセネール代表 大道寺のnote記事 の転載です。