バリュープロポジションキャンバス(VPC)とは? -顧客の悩みに応える提供価値をデザインする方法- (テンプレート付)
メルセネール・大道寺です。
ビジネスモデルキャンバスの教科書、第7回目は顧客の理解です。
全体像はこちら。
ビジネスモデルキャンバスとは?9つの構成要素と使い方を初心者向けに解説 ~BMCの教科書①~
顧客を理解する際に、私は漠然とした欲求を一つの言葉でまとめず、Customer JobとPain/Gainに分けて考えることをおススメしています。
Customer Job(以下、Job)とは、顧客が特定のコンテキスト・シーンで成し遂げたいこと、あるいは理想とする状態です。
PainはJobを実現するうえでの悩みや障害、GainはJobを実現する中で得たい結果・恩恵を指します。
「人手不足」「効率化したい」「もっと便利にしたい」といった言葉だけでは、顧客が何を成し遂げたいのかも、どのような価値を提供すべきかも分かりません。
先に結論をお伝えすると、
顧客理解は、「誰が、どの場面で、何を成し遂げたいのか」というJobを置き、その実現を妨げるPainと、実現の中で得たいGainを具体化するところから始まります。
宿泊施設向け省人化サービスの顧客インタビューを整理していた際の話です。
検討チーム:
「宿泊施設のPainは、人手不足です。どの施設からも人が足りないと聞きました。」
私:
「人手不足によって、誰が、どの場面で、何を成し遂げられなくなっていますか?」
検討チーム:
「フロント担当者が大変そうです。」
私:
「フロント担当者は、その場面で何を完了したいのでしょうか?」
検討チーム:
「宿泊者の本人確認をして、安全に鍵を渡し、待たせずに客室へ案内したいのだと思います。」
私:
「では、そのJobのどこに障害がありますか?」
検討チーム:
「夕方にチェックインが集中すること、担当者が1名しかいないこと、鍵の確認と説明に時間がかかることです。」
「人手不足」は重要な背景です。
しかし、その言葉だけでは、清掃、予約管理、チェックイン、問い合わせ、食事提供など、どのJobに関わるPainなのかが分かりません。
顧客の具体的な場面をたどると、初めて自社が支援すべきJobとPainが見えてきます。

Customer Jobは、一つの言葉として捉えると、広く曖昧になりがちです。
そこで最初は、CustomerとJobを分けて考えます。
「宿泊施設」「ビジネスパーソン」「高齢者」では、聞き手によって違う人物や組織を思い浮かべます。
例えば、宿泊施設向けサービスなら、
客室数10〜50室の地方旅館で、夕方のフロントを1名で担当している現場責任者
まで具体化すると、日々の行動や置かれている状況を想像しやすくなります。
BtoBでは、企業名や業種だけでなく、利用者、意思決定者、支払者などの役割も分けます。同じ企業に所属していても、役割が違えばJob・Pain/Gainも異なるためです。
Jobは、顧客が商品を買うことではありません。
スマートロックを導入することではなく、
夕方に宿泊者が集中しても、本人確認と鍵の受け渡しを安全かつ短時間で完了し、待たせずに客室へ案内する
ことがJobです。
商品・サービスをいったん頭から外し、「その顧客は本来、何を終わらせたいのか、成し遂げたいのか」を考えます。
以前のJob思考の記事でも触れた通り、Customerを具体化し、Jobとつなげて一つのストーリーにすると、顧客の行動や悩みを想像しやすくなります。
「健康でいたい」「業務を効率化したい」「売上を増やしたい」といった表現は、間違いではありません。
ただし、多くの顧客に当てはまるため、そのままでは事業設計に使いにくいJobです。
Jobは、特定のコンテキスト・シーンと組み合わせて考えます。
例えば「チェックイン業務を効率化する」よりも、
夕方の2時間に宿泊者が集中し、フロント担当者が1名しかいない状況でも、本人確認、案内、鍵の受け渡しを正確に終える
とした方が、具体的な場面が浮かびます。
Jobは機能的な仕事だけではありません。
も考えられます。
ただし、初心者のうちは分類を増やすことより、顧客の具体的な場面を一つ描けることを優先してください。
Painは、Jobを実現するにあたっての悩み、障害、負担、リスク、望ましくない結果です。
先ほどのチェックインのJobなら、
などがPainになります。
Painは、洗い出して終わりではありません。「なぜ、そのPainが起きているのか」を掘り下げます。
例えば「説明に時間がかかる」というPainの背景には、案内内容が紙と複数のシステムへ分散していることや、担当者ごとに手順が違うことがあるかもしれません。
原因が具体化されるほど、解決策の選択肢は広がります。
Gainは、Jobを実現する中で顧客が得たい結果・恩恵です。
機能的な結果だけでなく、感情的・社会的な結果も含みます。
例えば、
などです。
Gainは、単なる「うれしいこと」の一覧ではありません。
そのJobを十分に達成するために必要不可欠なGainなのか、あったらよいGainなのかを分け、優先順位を付けます。
PainとGainを、
のような反対語として書くケースがあります。
間違いとは言い切れませんが、これだけではJobを挟んで考える意味が薄くなります。
改めて整理すると、
です。
「行列ができる」というPainを減らした先に、単に待ち時間が短くなるだけでなく、「スタッフが宿泊者への個別案内へ時間を使える」「少人数でも複数施設を管理できる」といった別のGainが生まれる可能性があります。
PainとGainの記事でも扱った通り、Jobを基点にPainの原因とGainの中身を掘り下げることが重要です。
Jobは、顧客自身も明確に言語化できていないことがあります。
そのため、「あなたのJobは何ですか?」と直接聞くだけでは、十分な答えが得られません。
顧客の立ち居振る舞い、普段の何気ない発言、本来の用途とは違う道具を使った対処などから、Job・Pain/Gainの仮説を作ります。
例えば、フロント担当者が宿泊者の到着前に、予約台帳、翻訳アプリ、鍵の一覧、紙の案内を机へ並べているなら、その行動自体がPainを示しています。
現在の対処方法も確認します。
同じ商品を販売する企業だけが競合ではありません。顧客がJobを片付けるために現在使っている方法が、実際の代替手段です。
すべてのPainを深く掘り下げ、すべてのGainを実現しようとすると、検討に時間がかかり、商品も複雑になります。
Painは、次の視点で優先順位を付けます。
Gainは、次の視点で見ます。
可能であれば、発生回数、所要時間、費用、ミス件数なども確認します。
例えば、鍵の受け渡しに1組5分、1日30組、月25日かかるなら、月3,750分、約62.5時間です。
数字だけで感情や安全上のリスクは表せませんが、定性的な話と組み合わせるとPainの大きさを比較しやすくなります。

次の質問が使いやすいです。
「困っていますか」「何が欲しいですか」と聞くだけでは、一般論や解決策の要望が返ってきやすくなります。
過去の具体的な場面と行動を聞き、その話からJob・Pain/Gainを組み立てます。

次の空欄を埋めてください。
【具体的なCustomer】は、【コンテキスト・シーン】において、【Job:成し遂げたいこと】を実現したい。その際、【Pain:障害・悩み・リスク】があり、現在は【代替手段】で対処している。Jobを実現する中で、【Gain:得たい結果・恩恵】を重視している。
次に、次の4点を確認します。
答えられない項目が、次の観察やインタビューで確認することです。
業務名だけではなく、顧客がどの場面で何を完了し、どの状態へ進みたいのかを書きます。「チェックイン対応」より、「宿泊者を待たせず、安全に本人確認と入室案内を完了する」の方が具体的です。
よくあります。直接答えを求めるのではなく、過去の具体的な場面、行動、代替手段、周囲とのやり取りを聞き、仮説として整理します。
最初は複数挙げて構いません。その後、Painは深刻さ・切実さ、Gainは必要不可欠かどうかで優先順位を付け、重要なものを3〜5個程度へ絞ります。
要望も重要な情報です。ただし、そのまま機能へ置き換えず、「どのJobの、どのPain/Gainに関わる要望か」を確認します。
顧客が欲しいと言った商品から考えるのではなく、
この顧客は、この場面で何を成し遂げようとしているのか?
と問いかけてみてください。
次回は、「BMCの価値提案とは何か?」です。
重要なJobを支え、Painを減らし、Gainを生み出すために、商品・サービスをどのように整理するかを扱います。
新規事業やビジネスモデルに関するご相談受け付けております!
など、何かございましたら私のアドレス(kazuyoshi.d@mercenaire.jp)か、X(@Daidoji_K)までお気軽にご連絡ください!
※本記事はメルセネール代表 大道寺のnote記事 の転載です。