バリュープロポジションキャンバス(VPC)とは? -顧客の悩みに応える提供価値をデザインする方法- (テンプレート付)
メルセネール・大道寺です。
『ビジネスモデルキャンバスの教科書』の第2回です。
※第1回はこちら
ビジネスモデルキャンバスとは?9つの構成要素と使い方を初心者向けに解説 ~BMCの教科書①~
良い事業アイデアとは、顧客にとって魅力があるだけではなく、自社が実現でき、利益を生み、継続・拡大できるアイデアです。
「顧客が喜びそう」「技術的に面白い」「社会的な意義がある」という評価だけでは、まだ事業として成立するかは分かりません。
前回は、ビジネスモデルキャンバス(BMC)とは何か、9つのマスを埋めること自体が目的ではない、という話をしました。
今回はBMCを使う前提として、「良いアイデア」と「成立する事業」の違いを取り上げます。
先に結論をお伝えすると、
アイデアは「こんな価値を提供できそう」という仮説であり、事業は「その価値を実現し、届け、対価を得て、継続する仕組み」です。
両者の間には、かなり大きな距離があります。
ある省人化サービスを検討していたチームでの話です。
検討チーム:
「宿泊施設のチェックインや鍵の受け渡しを自動化できれば、フロント業務をかなり減らせると思います。」
私:
「確かに便利そうですね。宿泊施設の方からも、そのような声がありましたか?」
検討チーム:
「はい。数施設に聞いたところ、人手不足なので興味があると言って頂きました。」
私:
「良い反応ですね。では、いくらなら導入してもらえそうでしょうか?」
検討チーム:
「価格までは聞いていません。」
私:
「設置や既存の予約システムとの接続は、誰が行う想定でしょうか?」
検討チーム:
「そこは開発会社に相談しようと思っています。」
私:
「夜間に解錠できないなどのトラブルが起きた際は、誰が対応しますか?」
検討チーム:
「……まだ考えていないです。」
顧客が興味を示してくれたことは、大事な情報です。
ただし、「興味がある」と「導入する」は違います。「導入する」と「継続して利用する」も違います。そして、顧客が利用を続けてくれたとしても、自社に利益が残るとは限りません。
このチームのアイデアは、顧客価値の仮説は見え始めていますが、事業としての仕組みはまだ見えていない状態です。

事業アイデアの初期段階では、次のような説明がよく行われます。
〇〇という顧客が困っているため、△△という商品・サービスで解決する
これは事業の起点として重要です。顧客と課題、解決策の方向性が見えているからです。
一方で、事業として考えるためには、少なくとも次の問いにも答える必要があります。
つまり、アイデアは「価値の可能性」を示すものです。
事業は、その価値を生み出す活動、顧客へ届ける経路、お金を得る方法、必要な人材・技術・パートナーなどをつないだ仕組みです。
「面白いアイデアですね」と言われたときこそ、一段進んで「何が確認できれば事業として成立すると言えるか?」を考える必要があります。
私は、初期の事業アイデアを見る際、まず次の4つに分けて確認することをおススメしています。
最初は、顧客が抱える課題と提供価値です。
宿泊施設向け省人化サービスであれば、「人手不足」という大きな言葉だけでは足りません。
夜間対応が多いのか、チェックインが特定時間に集中するのか、外国語対応に負荷がかかっているのか、鍵の紛失対応が問題なのかによって、求められる価値は変わります。
「誰かが困っている」ではなく、「特定の顧客が、特定の場面で、放置できない課題を抱えている」と言えるところまで具体化します。
次は、商品・サービスを実現できるかです。
ここでいう実現可能性は、単に「技術的に作れるか」だけではありません。
スマートロック自体は技術的に作れても、施設ごとに異なる扉への設置、予約システムとの接続、通信障害時の対応、宿泊者への案内まで含めると、実現性の論点は増えます。
新規事業では、目立つ技術に注目し、地味な運用を見落としがちです。
しかし、実際に顧客が利用する際は、地味な運用部分で問題が起きます。
顧客が求め、自社が提供できても、利益が残らなければ事業として継続できません。
確認するのは、売上だけではありません。
例えば、月額3万円のサービスでも、営業に何度も訪問し、施設ごとに個別開発を行い、24時間のサポートを提供していれば、利益は残らないかもしれません。
「売れる」と「儲かる」は別です。
初期段階で精緻な事業計画を作る必要はありませんが、顧客1社あたりの売上と主なコストくらいは仮置きする必要があります。
最後は、事業を継続し、必要に応じて拡大できるかです。
最初の数社に提供できても、顧客が100社、1,000社に増えた際に提供できなければ、成長には限界があります。
もちろん、立ち上げ当初から完全に自動化・標準化する必要はありません。
最初は人手で対応しながら顧客を理解することも大事です。ただし、「いつまでも人手でしか回らないモデル」なのか、「学習した後に標準化できるモデル」なのかは区別しておきます。

BMCは、これら4つの条件を9つの構成要素に分解して確認する道具として使えます。
ここで大事なのは、1つのブロックだけを見ないことです。
例えば、「価値提案」に非常によい内容が書かれていても、それを実現する活動やリソースが無ければ提供できません。
「収益の流れ」に月額課金と書いていても、顧客が毎月使い続ける関係が設計されていなければ、継続収益にはなりません。
よいBMCには一つの物語と流れがあり、孤立したブロックをつくらないことが重要です。
BMCは9つのチェック欄ではなく、事業成立の因果関係を考えるためのものです。
事業アイデアを考えていると、確認できた事実と、チームの予想が混ざりやすくなります。
例えば、
小規模宿泊施設は人手不足に困っており、月額3万円なら省人化サービスを導入する
という文章には、複数の内容が含まれています。
このうち、どこまで顧客へ確認できているでしょうか。
各内容を、次の三つに分けます。
顧客への聞き取り、現場観察、利用実績、見積りなどで確認できていることです。
現時点では事実と断定できないものの、「おそらくこうだろう」と考えていることです。
まだ情報がなく、判断できないことです。
仮説や不明点があること自体は問題ではありません。
大切なのは、予想を事実のように扱わないことです。三つに分けると、次に顧客へ聞くこと、見積りを取ること、小さく試すことが具体的になります。

検討中のアイデアがある方は、次の4つについて、それぞれ3行以内で書いてみてください。
さらに、それぞれの記述へ、
のいずれかを付けます。
書けない項目があっても問題ありません。
その「書けないところ」こそ、次に調べるべきことです。
重要な前向き情報ですが、それだけでは判断できません。実際の導入条件、支払意思、利用継続、提供コストまで確認する必要があります。
細かな事業計画までは不要ですが、想定単価、顧客数、主な変動費・固定費を使った簡易試算は必要です。大きく赤字になる構造を早めに発見できます。
技術起点でも問題ありません。ただし、技術を使うこと自体を目的にせず、誰のどの課題に価値を生むのかを検証する必要があります。
まずは顧客価値から確認します。誰が、どのような場面で困っているのかが具体的になると、必要な機能、提供方法、価格の検討も進めやすくなります。同時に、安全性や法令など、早めに専門家へ確認した方がよい点も洗い出します。
良いアイデアを思いついたときに、すぐ細かな計画へ進む必要はありません。
一方で、「良さそう」という感覚のまま商品開発へ進むのも危険です。
まずは4つの条件から、何が分かっていて、何が分かっていないかを整理してみてください。
次回は、「BMCの9つの要素はどうつながるのか?」を扱います。
9つの名称を覚えるだけでなく、1枚のBMCを一つの事業の物語として読む方法を整理します。
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※本記事はメルセネール代表 大道寺のnote記事 の転載です。